俺ガイル ss 八幡 イケメン 隠す。 【俺ガイル】比企谷八幡「壁ドン?」【雪乃・陽乃】

八幡「どうした由比ヶ浜。その左腕」 結衣「え、えへへ……」 : やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 SS

俺ガイル ss 八幡 イケメン 隠す

15 ID:FdvpavaL0 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 修学旅行後の代休の翌日、つまり学校の通常の授業が再開される日。 本来であれば俺は学校にいるはずだった。 この際、 いるはずなのにいないもの扱いされるとかそういう細かいことには言及しない。 いないもの扱いしないとクラスの人間が 死ぬとかじゃないのにどうしてなんだろうね。 いや、むしろそういう扱いを受けてるおかげで死なずに済んでいる人間が いると考えよう。 もしかして俺、救世主? まぁ、救世主というのは大げさにしても半ば強制的に入れられた部活のせいでこの半年間、色々な人間の「問題の解決を するための『お手伝い』」とやらをやらせていただいたので、あながち間違った言い方でもないのかもしれない。 しかし、 手伝いという割に何故こんなに負担を感じているのか…………そのせい、とは言わないが今の俺は絶賛風邪引き中である。 66 ID:FdvpavaL0 だるい……そしてまだ熱い。 とりあえず、家にあった市販の風邪薬を飲み冷却シートを額に貼ったので本当にただの風邪ならそのうちよくなるだろう。 俺の場合、医院でも 持ち前のステルス能力がいかんなく発揮されてしまいナチュラルに順番が飛ばされ、むしろ体調を悪くすることが多々あ った。 したがってそういう場所に行くのは最終手段である。 まだこんなことを考えていられる時点で余裕はある。 本当に体調悪い時って何も考えられないか、同じ考えがループし続けているだけだからね。 30 ID:FdvpavaL0 いや、今俺の中での嘘と欺瞞について考えても仕方ないし。 たぶん風邪なんて引いてなくても堂々巡りになるだけだ。 俺がしたことは問題の解決でも手伝いでもなく、ただ時間稼ぎをしただけに過ぎない。 そしてあの時点ではそれが一番 良かったのだ。 今まで散々相手の考 えを読めずに失敗してきて今度こそは多少は理解してるつもりだったのにね。 やっぱりつもりはつもりに過ぎなかった。 相手が自分との距離をどう捉えてるかなんてわかるわけがない。 ただ、ひとつ言えるのは今の状態は近すぎて色々と危険 だということ。 ここはお互いのためにも少し離した方が良いのだろう…………自分が退くか、相手を退かせるかは後々 検討するとして…………そんなことをベッドの上で考えながら俺は再び眠りに落ちた。 08 ID:FdvpavaL0 コンコン 唐突に部屋の扉をノックされる音で俺は目を覚ました。 寝転がったまま体勢を変えて窓の外を見やるともう空が紅くなり始める時間だった。 近頃はますます日が短くなっている のでそう遅い時間というわけでもない。 ノックした人間が誰かは明らかだ。 「小町、か?」 「うん……お兄ちゃん、入っても……いや入れても大丈夫?」 「ん、大丈夫……入れても?え」 ガチャリ 違和感のある小町の受答えに疑問を持つ間もなく生返事をしてしまったせいで俺の物理的な最終結界は破られてしまった。 99 ID:FdvpavaL0 「……こんにちは」 「こ、こんにちは」 俺が上体を起こしている間に小町に続いて部屋に入ってきたのは誰あろう、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣だった。 いや、おかしいだろ。 あんなことがあった後で。 彼女らにどういう感情があるにせよ、しばらくは俺となんか顔も合わせたくないぐらいに思っていたのに。 マズいな、こういう時に来られると。 うっかり本当のことを喋ってしまいそうで。 そんなことを考えているうちに小町は二人を俺のベッドの横に来るように促し、自分は再び扉に向かいながらこう言った。 「じゃあ、あとはお三人でごゆっくり~」 「あ、おい小町!俺は二人を中に入れるのを……」 ガチャン 無情にも扉は閉められ、部屋には俺と雪ノ下と由比ヶ浜だけが残された。 53 ID:FdvpavaL0 「や、やっぱりまずかったよね……ごめんねヒッキー。 あたしたちもすぐ出るから……」 最初に口火を切ったのは由比ヶ浜だった。 いや言ってることはすごく真っ当なんですけど、そんな捨てられそうになってる子犬みたいな目で見ないでもらえます? この子は口調やらも賑やかだが、表情もやたらと雄弁なのであまり無碍にできないので困る。 なにせあの雪ノ下雪乃が拒否できないレベルだからな。 「いや…………どうせ小町のいらん計らいだし」 「それに何かその……用事があったんだろう?ここでさっさと済ましてもらった方が俺にとっても幸いだ」 本音を言えばこんな状態のしかも自分の部屋になんぞ入れたくはなかったが、とりあえず雪ノ下に関して言えばお互い様 みたいなものなのであまり強く拒否することはできなかった。 95 ID:FdvpavaL0 ヤバい。 今思ったことがそのまま口に出てたか。 いかんいかん。 どうも自分の部屋だと独り言の感覚で喋ってるな。 「あ……いや……俺自分の部屋に人入れるのとか……慣れてないから」 微妙にズレた話題にシフトさせつつこれ以上関係ないことを言わせないように牽制した。 「ご、ごめん……」 「……そろそろ本題に入ってもいいかしら?由比ヶ浜さんと風邪引きさん」 「……また変なあだ名つけられるのかと思ったらほんとのこと言われたからビビッたぞ」 「何か期待を裏切ったようでごめんなさい。 でも今日は本当に……あまり喋らせるわけにもいかないから、ね」 ふむ。 部長さんには部長さんなりの気遣いがあるようだ。 21 ID:FdvpavaL0 「それで、具合はどうなの?」 「ん、まあ熱も下がってはきてるし明日には行けるんじゃないか」 「よ、良かった……」 ホッとした様子で胸に手をあてて胸をなで下ろす由比ヶ浜。 雪ノ下の表情も少し和らいだように見えた。 「それで、その…………この間は……ごめんなさい」 「あ、あたしも……ごめん」 そう言って雪ノ下は長い黒髪をしなだり落としながら俺に向かって頭を下げ、由比ヶ浜は手を胸の前で合わせる。 52 ID:FdvpavaL0 「えっと……よく知らずに……ちょっと言い過ぎた、というか……」 「私も……少し言い方が不適切だったと思うので……あなたに謝るわ、比企谷くん」 心の内を素直に吐露する由比ヶ浜と、あくまで表現にのみ問題を絞って謝罪する雪ノ下。 実に彼女たちらしい。 しかし、よく知らずに……とはどういうことだろうか。 まるで今は知っているかのような言い方である。 「もしかして今日……何か話したのか?その…………海老名とかと」 「い、今もあんまり詳しいことは分からないけど……」 「姫菜に『比企谷くんをあまり責めないであげて。 悪いのは全部私だから』って言われちゃって……」 …………なるほど。 直接俺と海老名の間に何かあったと言ったわけではないが、それを示唆することを告げたのか。 世の中案外それで納得できることも多いのかもしれない。 そして、お互いに踏み込んでいいと思っている領域がわかっているならそれで上手くいくものなのかもしれない。 98 ID:FdvpavaL0 しかし、他人の事情なんてそもそもあるのかどうかさえも分からないことの方が多い。 そして、普通はそんなことは 気にしないで口に出すものだ。 それこそ、あの時の彼女たちのように。 だから、そこまで気を遣われる必要はない。 「……そんなに気にするようなことでもないけどな。 別に間違ったことを言ったとも思わんし」 「うん。 あたしも今でも自分の言ったことが間違いだとは思ってないよ。 でも、結局それでヒッキーを……」 先に答えたのが由比ヶ浜だったのでいささかたじろぎそうになったが、俺は続ける。 「仮に正論で相手を傷つけるようなことがあったとしても、俺はそういうのには当てはまらない。 だから気にするな」 「それは、その相手のことを何とも思っていないからではなくて?」 出し抜けに発せられた雪ノ下の言葉に一瞬胸が止まった気がした。 72 ID:FdvpavaL0 だから、だからお前たちのことも何とも思っていないから……俺は傷ついてなんかいない、とはさすがに言えなかった。 俺が沈黙してしまった間に雪ノ下が続けた。 「この際、あなたがどう考えているかは気にしないわ。 だから、この謝罪は自己満足と思ってもらって全く構わない」 「……そうですか」 先に向こうからそう言われてしまってはこう返すしかない。 まぁ相手が俺のことなんて気にしていない、という体の方が自分も気が楽でいい。 これはこれでぼっち同士の気の遣い方としては一つの解なのだろう。 俺が奉仕部の活動でそうしてきたように。 俺の自己満足で他人を助けてきたんだから、それで自分がどんな目に遭おうともそれは自己責任の範疇だ。 95 ID:FdvpavaL0 「あ、あたしは気にしてるけど……ヒッキーが……何考えてるのか」 「え?」 「だって最近のヒッキー……思ったことそのまま言ってくれてない……気がするから」 ……全くそういうことには相変わらず目ざといのな、由比ヶ浜は。 つい最近まで俺自身すら自覚してなかったことなのに もうお見通しなの?あなたはエスパーか何かですか。 絶対可憐とか言い出しちゃうの? 「……それはお前の気のせいじゃないか?というか思ったこと言うかどうかなんて俺の勝手だろうが」 嘘にはならない程度の言い回しで適当に誤魔化してみるテスト。 「それはそうかもしれないけど…………今のヒッキーは……文化祭の時のゆきのんみたいだから……その」 「その程度のことならこの男の場合、別に心配するほどのことではないわ」 「そ、そうだ。 心配することのほどではない。 俺と由比ヶ浜があの時のお前をどう思っていたかは置いておくにしても」 ここまではいつもの雪ノ下の気を遣わないという気遣いだと思っていたのだが。 今まで散々皮肉を言い合ったりあてこすりをしてきた相手だ……その言外の意味するところがわからないはずがない。 しかしその内容を口に出すことははばかられた。 認めてしまうのは怖かった。 だから俺はまた黙るほかなかった。 19 ID:FdvpavaL0 雪ノ下が向きを変えて扉へ歩いていく中、由比ヶ浜はリュックをおろして何か取りだそうとしている。 「あと、これも」 取り出して掌の上に乗せられていたのはSDカードだった。 由比ヶ浜とこういう物の組み合わせってなんだか妙だ。 「……何か由比ヶ浜が俺に渡すようなデータなんてあったか?」 「しゅ、修学旅行の写真だよ……一緒に撮ったでしょ?」 そういえばそうだった。 普段写真なんて撮る習慣がないからすっかり忘れて…………いや、珍しいことなら覚えてなきゃ むしろおかしい。 修学旅行は……最後の記憶がインパクト大きすぎだったからだ。 それを認めてしまっていいのか俺は。 28 ID:FdvpavaL0 俺が受け取ったSDカードを机の上に置いたのを見ると由比ヶ浜もリュックをしょい直して扉の方に向かって歩き出す。 「じゃ、じゃあヒッキーお大事に」 「……お大事に」 「ああ」 扉の前で待っていた雪ノ下は頭を下げ、由比ヶ浜は小さく手を振って部屋から出ていった。 「……ふぅ」 部屋の中が静かになり、また横になると安堵か寂寥か自分でもよくわからない変なため息が出る。 「…………寝よ」 俺は再び視界を暗くした。 23 ID:FdvpavaL0 夕飯を済ませた後くらいには熱もほぼ下がっていたので由比ヶ浜が渡したSDカードのデータをコピーすることにした。 が、いいのかよ、これは…………俺と由比ヶ浜が写ってる写真だけじゃなく修学旅行中の他の写真もあるんですが。 いや、それだけならまだしも…………由比ヶ浜のデジカメで撮ったものたぶん全部見れちゃうんですけど………… これってたぶん夏休みに行った家族旅行の写真だよな…………てかそれ以外にも色々撮ってるのね、この子は。 わざと?…………と言いきれないのが由比ヶ浜の所業…………明日返す時なんて言おうか。 黙っとけばいいのか? あ、さすがに良心が咎めたので俺が写ってる写真以外はコピーしてないですよ。 ホントですよ。 …………なんだか寝る前にまた熱の上がりそうなものを見てしまった気分だ。 とりあえず昨夜の心配は杞憂だったようで、熱がまた上がるようなことはなくだるさもほぼなくなり、普段より少し早い 時間に目を覚ますことができた。 リビングに向かうともう小町が朝食の準備を済ませたところだった。 例によって親二人 はもう出払っている。 仕事なのでまあ致しかたないところではある。 「あ、お兄ちゃんおはよう。 もう治った?今日は学校行けそう?」 「おはよう小町。 まぁほぼ治ったみたいだから今日は行けそうだ」 一緒にテーブルに着くと小町は何やら口元を押さえてニヤニヤし始めた。 いくら千葉名物?のシスコンの俺としてもこの 表情はちょっと擁護できないできないレベルでキモい。 さすがは俺の妹。 「……どうした小町。 みなまで言わせるなど野暮なことをお兄ちゃんは要求しちゃうんですか?」 ……何を言いたいのか全くわからん。 まぁわざと相手に伝わらないことを言って話を続けさせることは俺も時々やるので あまり人のことはいえないのだが。 とりあえずここは首をかしげておこう。 「昨日はお楽しみだったじゃないですか」 「誤解を招くような言い方をするな」 「まぁ事実としてはお兄ちゃんが美女二人を自分の部屋に連れ込んで……」 「それも事実じゃねえから。 連れ込んでないから。 あの二人を呼んだのはお前だろうが」 美女二人……というところまでは否定しませんけど。 それで元気になったのなら結果オーライってことで」 「……むしろ熱が上がるかと思ったけどな」 夜に見た写真のことも頭に浮かんで思わず俺は小声でつぶやいた。 「え?」 「な、なんでもない。 それよりさっさと食おうぜ」 「お兄ちゃんのケチ!話したことくらい喋ってくれてもいいじゃん!修学旅行の話もまだ聞いてないのに」 小町はべーっと舌を出して顔をしかめた後トーストを手にとってかじり始めた。 そういえば思い出話をみやげに……なんてことを言ってたっけかな。 帰って早々に寝てしまっていたから忘れていた。 「まあ、そういうのは今日以降な」 「むー」 話すとは一言も言っていないけれど、まだ本調子でない自分を気遣ったのかそれ以上はツッコんでこなかった。 「忘れ物とかないか?」 「大丈夫大丈夫。 あっ……お兄ちゃんの修学旅行のみやげ話なら」 「後だ後」 「ちぇー」 「あ」 っと。 危ない危ない、俺が忘れ物するところだった。 修学旅行という単語で思い出したが、由比ヶ浜のSDカードを鞄に入れるのを忘れていた。 いったん鞄を下して階段を上がって自分の部屋に戻り、机の上に置いたままだったそれを手に取った。 いつの間に俺の部屋に入ったんだよ。 いくら血の繋がった兄妹とはいえこんなステルス能力まで受け継がなくていいから。 怖いから。 「ビックリさせんなよ小町」 「むしろ小町がビックリだよ。 お兄ちゃんいつも念入りに持ち物確認してるし」 そう。 ぼっちにとって忘れ物というのは致命的な問題なのだ。 「忘れたから誰かに借りればいいや」というような 甘ったれた考えの持ち主には想像できないかもしれないが。 そこ、借りる相手がいないだけとか寂しくなるツッコミ は控えるように。 それに教科書など俺なんかが隣の席の人に見せてもらえたところでどうにも不自然な状態である ことには変わらず、見せた人が衆目に晒されるのもかわいそうな話である。 だから、忘れ物はしないよう最大限の努力 を払ってきた、つもりだった。 マインスイーパなら即ゲームオーバーだぞ。 「見りゃわかんだろ」 手に取っていたものを指でつかんで小町に見せる。 「そうじゃなくて…………あっ!もしかして」 「いいから下降りよう、な!」 「はいはい……」 手にSDカードを握ったまま、渋る妹を押しやりながらまた階段を下りて玄関に戻る。 俺が鞄の中にそれをしまい直すと小町が何やら嬉しそうな様子で言う。 もしかして探偵だったりする?名探偵コマチ……語呂は悪くないな。 「まぁ……昨日由比ヶ浜から借りたんだよ」 否定したところでどうしようもなく、嘘をつく理由も特にないので事実を簡潔に告げた。 「え~小町も見たいなあ、そのSDカードの中身」 ……さすがにそれはマズい。 小町がこれの中身を見るということは俺が由比ヶ浜のアレコレの写真を見たことがバレる のに等しい。 しかし、幸いにして断る理由を見つけるのはごく簡単だった。 少なくとも俺が写ってる写真しかないが」 「まぁそれなら後で見せてもらえばいいか…………ん?」 「それよりもう外出よう」 俺の最後の言葉に少々の疑問を感じたようなので、さっさと妹を玄関から外に追い出して扉の鍵を閉めてしまう。 「じゃあいってきます」 「……いってきます」 もうカマクラの他に誰かがいるわけではないが習慣となっている挨拶をしてから家の外に出る。 「お兄ちゃん……写真とみやげ話、忘れないでよね」 「……はいはい」 ……なんだか出かける前から疲れてしまった。 速く走れば体は温まるが風圧はキツくなるし、 ゆっくり走ればそれはそれで寒いままだ。 再び、というのは夏は夏で暑くて辛いからだ。 というか温暖化だの異常気象 だの散々言われているが最近はホントに季節的に辛い時期が増えてるような気がする。 夏・冬が長くて春・秋が短い。 生きるだけでも充分辛いのに勘弁してほしいです、地球よ。 自然も人間も優しくないのなら、やはり自分で自分を甘やかすしかないな。 あ、でもこの季節に飲む温かいMAXコーヒーは至高だと思います。 なんだ、冬もやればできるじゃないか。 そんなことを考えつつ学校の駐輪場に着き、俺は自転車に鍵をかけていた。 すると、背後から聞きなれた声がする。 寒くなってきたせいなのか今日はピンクのマフラーを首に巻いている。 どうでもいいがこいつにピンクが似合うのはアホっぽいせいなのか、と余計なことを考えてみたりする。 しかし、風邪というわけでもあるまいにその声はあまり元気な様子ではなかった。 「おはよう…………なんか調子でも悪いのか?」 「え!?い、いや違うし……ヒッキーはもう、風邪大丈夫なの?」 「まぁ熱も下がったし、まだ本調子ではないがほぼ治ったかな」 「良かった…………ところで、……えっと……その……見た?」 胸の前で指で三角形をつくる、恥ずかしがる時にやるいつもの癖で目を逸らしながら彼女はそう言った。 「しゃ……写真」 「ああ、修学旅行の。 見たけど、それが何か」 嘘は言ってないぞ、嘘は。 「そ、そうじゃなくて…………その……他の…………」 どんどん声が小さくなっていき、最後の方は聞き取れなかったが彼女が言いたいことは理解した。 「ま、まあ……フォルダとかに分けられてなかったから……その……」 見る見るうちに紅潮していく由比ヶ浜の顔に連動してこちらの顔の温度も上がっていく気がした。 「ご、ごめんねヒッキー…………」 てっきり「キモい」「変態」「ストーカー」などと罵倒されるかと思ったのに意外なことに謝罪されてしまった。 「あ、えっと……俺の部屋に由比ヶ浜が入ったことと写真のことで差し引きゼロってことにしないか」 「もしそれでまだ不満があるなら……何か要求してもいいけど、さ」 お互い意図しないところでプライベートな領域に踏み込んでしまったのだ……これでどうにかならないか。 「……わかった。 とりあえずそれでいいよ。 ここは俺のような人間を他山の石としてもらって大いに学習してもらうことにしよう。 ちなみに写真自体はイメージ通りのものしかなかったと記憶している。 「あのな、前にも言ったと思うが……俺の他人に対する印象なんてそうそう変わるもんじゃないぞ」 「……それは印象そのものがないか、嫌ってるだけなんでしょ?」 そういえばそんなようなことも言ったっけ。 あ、この展開はマズいことになりそう。 「そもそもだな…………自分の他人からの印象をコントロールしようと思う時点で間違ってんだよ」 個人的な感情の話になると収拾がつかなくなりそうなので、無理やり話を一般論に戻す。 「……別に俺だって最初から人に嫌われようと思って行動してぼっちになったわけじゃないからな」 「好かれようと思って嫌われることなんていくらでもあるんだから、そんなこといちいち気にしなくていい」 「自分の他人からの印象はコントロールできない…………か」 人差し指を顎に当てて何か思案している由比ヶ浜。 一転して何故かその表情はどこか楽しげだ。 「……もしヒッキーがわざと嫌われるようなことしても、あたしのヒッキーに対する印象は変わらないからね」 ダメダメダメダメ!そういうこと言っちゃダメだって!…………いかん、落ちる。 何がとは言わないが。 多分これカウントダウン入った。 じゃあ落下じゃなくて打ち上げか。 俺はロケットか何かか。 大気圏脱出してランデブーに入る前に爆発炎上が関の山、かな…………やっぱり落ちるのか、俺。 「そ…………そうですか」 「うん、そうだよ」 変な汗が出ておそらく目も泳いでたであろう俺は、そう答えるのがやっとだった。 「あ、あとさっき言ってた要求の話だけど…………ヒッキーあの約束忘れてないよね?」 「な、なんでしたでせうか」 頭が回って何のことやらわからない。 そういえば宇宙飛行士って平衡感覚を養うために回転椅子に乗せられてたっけ。 「もう…………文化祭の時の!」 そこまで言われてやっとハッキリした。 由比ヶ浜にハニトーを奢られたので何かお返しをしないといけないんだった。 もちろん忘れてなんかいないさ。 ちょっと今は頭の中が混線していただけで。 ジャムってただけで。 ハニーではなく。 「わかってる。 人ってあんまり待たせられると期待値が上がっちゃうのよね。 俺自身の経験でもそういうことはあった。 長期休載してた漫画が連載再開して、いざ読んでみるとあれ?こんなもんだっけ?と思うみたいな。 「その場合、ハ、ハードルをくぐるというのは……」 「ダメに決まってるでしょ?そんなの」 「……ですよねー」 笑顔であっさりと却下されてしまった。 ま、当然ですが。 「あ、おい!SDカード!」 ステップの軽い彼女と対照的に、その後姿を追いかける俺の足取りは何故か重かった。 病み上がりとかそういう理由ではない。 するといくつかの あまり心地よくない視線が俺に刺さる。 まるで何か痛々しいものでも見るかのような目だ。 ま、別に間違ってるわけ じゃありませんが。 1級拒絶鑑定士だけでなく1級視線鑑定士も取得している自分にはその視線の意味するところが すぐに理解できた。 あれを見たのはごく限られた人間だけだった筈なのにな。 まぁ壁に耳あり障子に目ありと言うくらいだしね。 竹藪では それこそ筒抜けみたいなもんだ。 おまけに独立してるのかと思いきや地下茎で繋がっていたりもする。 そもそもそうでないと俺の したことにも意味がなくなるしな。 葉山や三浦や海老名さんの懸念はとりあえずは解消された。 そして、このグループ内 ではひとまずその話題は封印することになったらしい。 教室の後ろの方で喋っていることも全然関係のない話のようだ。 そういう意味では文化祭後とは結構状況が違う。 トップカーストが話題にしなければ情報の伝播も弱くなるし、今回は 俺が悪人になったということでもない。 席についてふと、また別の視線が刺さったのでそちらを向くとまたもや目を逸らされてしまった。 川崎沙希。 普段も弟とメールしている時以外は、不機嫌そうな表情をしている彼女だが、今は本当に何かに怒っている ような様子だった。 …………俺、何かマズいことでもしたのかな。 自分の席に戻り、寝る体勢に入りかけた頃に横から声がかかる。 その心地よさたるや思わず昇天するかと思った レベル。 しかし実際問題天使なのだからしかたない。 瞼を開けて顔を向けると微笑を浮かべる戸塚彩加の姿があった。 「おはよ、八幡」 「お、おはよう戸塚」 「由比ヶ浜さんから風邪って聞いてたんだけど……もう治った?」 心配そうにこちらを覗きこんでくるその表情を見て思わず言ってしまう。 「ああ……たった今完治したよ。 戸塚のおかげでな」 「ええ~それどういう意味?」 少しあきれたような感じで笑って返してくれる。 ただでさえ俺に話しかけてくれる人間というだけでも貴重なのに。 「ところで、その……どうだったの?結局……修学旅行の」 ああ、そういえば戸塚は知ってたんだったな。 戸部の好きな相手が海老名さんだということに。 立場を変えて考えてみる と今の状況はいささか変である。 何故か彼女に告白したのが俺になっているのだから。 「なんというか……まぁ、その仕切り直しになったというか。 ほら、」 そう言って葉山たちの方を指さす。 彼らは傍から見れば修学旅行以前と何ら変化がないように感じられる。 「……そっか」 これでとりあえず戸部の告白の件については納得して頂けたようだ。 できればこのままスルーしてほしい、俺のことは。 「……大丈夫だ。 俺のことは気にするな」 「い、いや……八幡もそうだけど……僕はむしろ由比ヶ浜さんの」 「え?」 アレ?今とっさにフォローしてくれたみたいだけど、俺のことじゃないのか……自意識過剰かよ、なんか恥ずかしい。 ハハハ、別に戸塚が見知った相手だからといって俺が心配されるような存在じゃないのは自分が一番よくわかってる つもりだったのに。 ……なんか俺、落ち込んでる? それにしても、何で戸塚が今回の件で由比ヶ浜のことを心配するのだろうか……よくわからないな。 気にしないで」 「お、おう……」 人間見るなと言われたら見たくなるもんだし、気にするなと言われたら気にしてしまうものである。 しかし、この場合 相手が戸塚だ…………戸塚が嫌がる姿は見たくないのでそれ以上追及しないことにした。 ごめん、今自分に嘘つきました。 戸塚が嫌がる姿も見てみたいです…………が、とりあえずここは我慢します。 「じゃあ頑張ってね、八幡」 「……と、戸塚もな」 部活の事なのか何なのかいまいちハッキリしない激励をし合って戸塚との話を終えた。 ……そろそろHRの時間か。 他の人も教室に戻ってきたり、席につき始めている。 ……俺のこの状態もしばらくの辛抱だ。 この先良くなるとわかって いるのなら今悪くてもそんなに憂鬱にはならない。 自分の存在がちっぽけ過ぎるとかセカイがつまらないとかそういう類 の悩みではないのだ。 だから、ここにいる間はそんなに気分は落ち込んではいなかった。 特に何事もないまま午前の授業、昼休み、午後の授業と時間は過ぎていった。 ただ、いくら教室が俺にとってのアウェイ で冷たいといっても病み上がりの状態でこの季節に外で昼飯を食べたのは手痛いミスだったような気がする。 教室は冷たく、外は寒い。 八方ふさがり。 いや、ふさがってるなら暖かそうだな。 体調が良くないのなら保健室という手 もあったのかもしれないが、あの独特な臭いの中で飯を食べるのもどうなんだという気がしてやめておいた。 そろそろ他にどこかいい場所を見つけないとな、屋内で。 奉仕部部室などは最初から選択肢に入らない。 あそこは部長 である雪ノ下雪乃の領土みたいなものだからな。 俺のような不審者が下手に近付けば領海侵犯で即射殺されるレベル。 46 ID:dJldF2Mi0 しかし、周りの永久凍土を融かしてまんまと氷の女王のテリトリーの侵入に成功してしまった奇特な方もいないことも ないですが。 彼女は固有の領土こそ持っていないものの持ち前の空気読みスキルと八方美人ぶりを発揮して色々な ところにしっかりと自分の居場所を確保している。 あれで頭が良ければ優秀なスパイになれたんじゃないだろうか。 おっぱいは大きいからハニートラップには向いているかもしれないな。 まぁそんなことしなくても彼女の場合、男子に とっては存在そのものがトラップみたいなものですが。 俺も危うく引っかかりそうになったことがある。 今でもそうなの かは知らないけど。 09 ID:dJldF2Mi0 冬場の昼食の場所の候補を思案しながら部室の扉を開けると、そこには件の氷の女王もとい雪ノ下雪乃がいつものように 椅子に座って本を読んでいた。 不思議なもので、部屋の体感温度というものは人間がひとりいるだけでもだいぶ温かく 感じられるものだ。 たとえそれが彼女であったとしても。 「うす」 「こんにちは、比企谷くん。 鬼の霍乱はもう治ったのかしら」 「まぁほぼ治った感じだけどな……だが俺は鬼なんかじゃねぇぞ。 ゾンビと間違えられることはあっても」 「……確かにほぼ治ったみたいね」 何か安心した様子でふぅっと息をつき、彼女は続ける。 39 ID:dJldF2Mi0 「案外由来を考えると間違っていないのかもしれないわよ。 元々『鬼』という単語は『おんに』つまり陰を表す言葉から 派生したものだそうだから……比企陰くん」 「また、変なあだ名つけやがって……それが病み上がりの人間に対する仕打ちかよ」 「……だったら、大人しく黙っていることね」 「……」 少しは雪ノ下が優しくなってくれることを期待して、俺は黙ることにした。 断じて論破されたからではない。 どうでも いいけどダンガンロンパって彼女にこそふさわしい言葉のような気がする。 実際のその言葉の使われ方は知らんけど、 なんとなく字面的に。 俺が席についた後はしばらくの間、またいつもの沈黙が続く。 54 ID:rJWw4fQ40 「ゆきのん、ヒッキーやっはろー!」 「こんにちは」 「うす」 扉が開いていつもの頭の悪そうな挨拶をして由比ヶ浜が部室に入ってくる。 部員が揃えばもうやることは決まって放課後ティータイムである。 軽音部ではなく。 めいめいに机の上に菓子を取り出し、雪ノ下は紅茶を淹れる準備をする。 しばらくしてお湯が沸いた後、慣れた手つきでティーカップとマグカップと湯呑みに紅茶を淹れていく雪ノ下。 ……湯呑み?そんなものあったっけか。 俺が怪訝な目で前に置かれているそれを見ていると彼女はつぶやいた。 65 ID:rJWw4fQ40 「……これは部活動の備品の支給よ」 「そ、そうなんですか」 「ええ、そうよ」 「……」 そう言われてしまってはあえて反論するのも受け取るのを拒否するのも何かおかしいので、少し冷ましてから手に取り 紅茶を飲む。 美味い。 季節が寒くなると温かい飲み物のありがたみというのはますます増すというものだ。 雪ノ下は雪ノ下でさっきの会話などなかったようなそ知らぬ顔でティーカップに口をつけ紅茶を飲んでいた。 そんな様子を横目で見ていた由比ヶ浜は少しあきれたような微笑で肩をすくめる。 57 ID:rJWw4fQ40 しかし、部活動の備品ねぇ……その湯沸しポットもティーポットもソーサーもカップも私物にしか見えないんですが。 マグカップはマグカップで由比ヶ浜のものだろうし…… 「雪ノ下」 「……何か?」 件の湯呑みを持ち上げて雪ノ下に見せながら疑問に思ったことを訊いてみることにした。 73 ID:rJWw4fQ40 一瞬だけ顔を下げて目を瞑り思案する様子を見せた後、雪ノ下は告げる。 「……そのように解釈してもらっても別に構わないけれど」 「ただ、どのみちもう一度あなたが使ってしまったのだから、これを他の人間が使うことはないと思うわよ」 「……確かにそれもそうだな」 さすがに比企谷菌と呼ばれる実力があるだけのことはある。 自分でも納得してしまった。 「そ、そうとも限らないんじゃないかな?」 湯呑みを見ていた由比ヶ浜が唐突に口を挟んできた。 「そういう訳のわからないフォローとか別にいらないから。 それとも何?お前この湯呑み使いたいの?……変態?」 「えっ!?そっそういう意味じゃなくて……ばっ、バカじゃないの?ヒッキー」 そう言いながら胸の前で激しく手を振り否定した。 カップに当たりそうで危ないからやめろ。 99 ID:rJWw4fQ40 「はいはい、俺は馬鹿ですよ……」 「そ、そうだよ……ヒッキーはバカだよ……」 あ、別にそこは否定とかしてもらえるんじゃないんですね。 さっきフォローされたからつい期待してしまった。 その程度 のことも予測できないとはやっぱり馬鹿ですね、自分は。 「そうね、比企谷くんは馬鹿ね」 そこ、誰が追い打ちをかけろと言った。 しかし発せられた酷い言葉とは裏腹に二人は似た表情で俺のことを見てくる。 ハハハ、そんな目で見ないでくださいよ……まるで俺が可哀相な人間みたいじゃないですか。 何故か修学旅行の時の記憶がフラッシュバックする。 これ以上二人のこんな顔は見たくないので、俺は話題を元に戻すことにした。 74 ID:rJWw4fQ40 「しかし、なんでわざわざこんな湯呑みを?俺は別に紙コップでもよかったのに」 「数える程度にしか飲まないのなら、それでも別に構わないわ。 しかし、使い捨てを続けるのは環境的にも……」 「……ま、俺がいる時点で環境的には悪いんですけどね。 57 ID:rJWw4fQ40 俺じゃなくて菌のフォローしてどうすんだよ……雪ノ下はツッコミを無視して続ける。 「別に菌といっても菌糸類など色々あるし、環境的に有害とは限らないわ。 比企茸くん」 「俺はキノコか何かか!?ちなみに俺はキノコ派でもタケノコ派でもどっちでもないぞ」 「あ、あたしはキノコ派かな……?」 そういえば由比ヶ浜、キノコ好きそうだもんな。 なんかそういうカンバッジを鞄につけてたような記憶もあるし。 しかし、何故キノコ…………初期の彼女の料理の腕前は確かに毒キノコレベルだったが。 53 ID:rJWw4fQ40 雪ノ下は初めて聞いた用語が出てきたせいか、首をかしげて由比ヶ浜に耳打ちしながら尋ねる。 どうでもいいけど 誰かの悪口でなければ女の子が耳打ちしてる姿ってなんかいいよね。 ……なんならされるのも悪い気分しない。 63 ID:rJWw4fQ40 ほう。 無派閥が二人、つまりは俺が多数派に属したことになるのか。 珍しいこともあるもんだな。 ……それ多数派か? 「……今回は由比ヶ浜がぼっちということみたいだな」 「むぅ……た、たかがお菓子の好き嫌いくらいで大げさだよ」 「その通りだ由比ヶ浜。 お前も少しは世の中の仕組みとやらがわかってきたようだな」 頭にクエスチョンマークを浮かべた顔と怪訝そうな顔で彼女たちはこちらを見やる。 「いいか?世の中の派閥争いなんて大概がくだらんものだ。 争うこと自体がすでに馬鹿馬鹿しい」 「やれ犬派だの猫派だの、好きなアイドルはどっちだ、だのそんなもの個人個人が勝手に決めりゃ済む問題だろ」 「……それは確かにそうね。 14 ID:rJWw4fQ40 「そ、それはたぶん……みんなと一緒ってことで安心したいんだ、と思う……」 「「みんな、ね……」」 同時にため息が漏れ、同じことをつぶやく俺と雪ノ下。 しかし、それができなかった人間もいる。 ただ、そういう考えはますますぼっちを加速 させることにもつながったのだが。 32 ID:rJWw4fQ40 「ん……話を元に戻さないとな。 そうだ由比ヶ浜、ギャンブルで絶対に賭けに負けない方法って知ってるか?」 「え?な、なんで急にそんな話に?……う~ん……ヒッキーの考えそうなことだから……」 腕を組んで唸りだす由比ヶ浜。 体の一部分が強調されて、別の意味で俺が負けそう……煩悩的に。 「あ!わかった。 そもそも勝負しないんだ!」 自信満々に人差し指を突き出して答える由比ヶ浜。 ほう……なかなかこの子もヒキガヤイズムがわかってきたみたい じゃないか。 だが、惜しい。 「……それもある意味正解といっちゃ正解だ。 37 ID:rJWw4fQ40 さすがにもう何も思いつかないのか隣の雪ノ下に助けの視線を送る。 するととっくに正解を知っていたかのような素振り で彼女はこう答えた。 「胴元になること、とでも言いたいのかしらあなたは」 「どうもと…………剛?」 「某アイドルユニットのメンバーじゃねぇよ……体の胴体の胴に元気の元の方の胴元だ」 たぶんここまで説明しても意味わかってないよなあ……由比ヶ浜の場合は。 「由比ヶ浜さん、胴元というのはギャンブルの親や元締めのことよ」 「親、元締め……」 おうむ返しになってるだけだな、わかってませんねやっぱり。 55 ID:rJWw4fQ40 「親なら……ほら、カジノでカード配ったりルーレットで玉転がす人のことだよ」 「元締めで身近なところで言えばパチンコの経営してる人だ」 はっとした様子で手を打つ由比ヶ浜。 ようやくピンときて頂けたらしい。 「要するに場所や道具を貸してお金を取っている人のことよ。 こういう人たちはギャンブルの参加者が勝とうが 負けようが関係なく儲けられる。 それでいいのよね?賭けに負けない方法というのは…………比企谷くん」 「その通り。 59 ID:rJWw4fQ40 またしても首をかしげる由比ヶ浜……さすがに雪ノ下の方は話の結末が見えたようでふんふんと頷いている。 「つまり、争いごとをわざと起こして儲けてる奴がいるってことだよ。 きのこたけのこなら製菓会社、アイドル総選挙 ならプロデューサーや芸能事務所。 参加者がハマればハマるほどいわば胴元が儲かるという寸法だ」 「な、なんか嫌な話だなあ……」 「だから、そういうものは遠巻きに見てるぐらいでちょうどいいってことだよ。 ぼっちでいる限り負けることはない!」 「……結局そういう話のオチになるのね、あなたは」 由比ヶ浜と雪ノ下は微妙に違うニュアンスで苦笑いをした。 67 ID:rJWw4fQ40 「……そう、一人でいるだけなら、つまり孤立しているだけなら他の生態系に影響があるわけじゃない」 「だから、環境的にも悪影響とは必ずしもいえないんじゃないかしら」 「そうですか……」 ぼっちという単語で思い出したのだろう……俺が環境的にどうのこうのという話に戻す雪ノ下。 悪影響がない、と彼女 は言っているのだからこれは喜んでいい場面なんだよな?そうだよな? 「あ、あたしは影響あったと思うけど……」 ぽそっとつぶやく由比ヶ浜。 まぁ、奉仕部に入って一番変わったのはたぶんお前だろうしな。 43 ID:rJWw4fQ40 「そうか?それは悪かったな由比ヶ浜。 素直なお前に色々とひねくれた考えや悪知恵を仕込んでしまって」 「へ?べ、別にそういう意味じゃ…………す、素直?」 困惑した後に笑みを浮かべる彼女。 どうやら素直という言葉で褒められたと思ったらしい。 「あ、ここでいう素直ってつまりは馬鹿ってことだからな。 勘違いするなよ」 「はぁ?な、なんでヒッキーっていつもそういうこと…………あ!」 「なんだよ?」 なんか由比ヶ浜のこの表情は見覚えがあるな。 ああ、小町がロクでもないことを思いついた時の顔とそっくりだ。 70 ID:rJWw4fQ40 「え~……」 やっぱりロクでもないことだった。 そんな改まって言えるかよ、素直とか…… 「確かに由比ヶ浜さんは素直だと思うわ。 でも、この男にストレートにそんなお願いして聞いてくれるわけないじゃない」 「この男自身が素直じゃないんだから。 素直って言えと言ったところでそのまま従うと思う?」 「ん……確かにそれもそうだね。 ヒッキーは捻デレだもんね」 「でしょう?だから、ここは素直に諦めなさい」 「わかった……ゆきのんがそういうなら諦めるよ」 おい、なに勝手に二人で笑顔で納得しちゃってんの。 あと小町の作った変な造語をこんなところで定着させないでくれ。 だいたい雪ノ下は他人のこと言えた義理なのか?…………いや、やめておこう。 それを考え始めるとたぶんドツボに嵌る。 ……この湯呑みもただの備品の支給と言っていた。 彼女がそういうのなら、おそらくはそうなのだろう。 それならそれで、俺も言うべきことがあったのを思い出す。 62 ID:rJWw4fQ40 「ところで雪ノ下。 この湯呑みは部活の備品と言っていたが……」 「ええ、そうね」 「それならそれで、俺はその対価を払う必要があるんじゃないのか?」 「そのことなら気にしなくてもいいわ。 この部活にも部費というものが一応あるのだから」 ぶひ?ブヒ?……確かに俺は萌えアニメも見ないこともないが、さすがに「シャルぶひいぃぃぃ」とか言ってないぞ。 心の中では言ってたかもしれないが。 ……うちの部活に部費なんてものがあったのか。 初めて知った。 由比ヶ浜も知ら なかった様子でこちらを見て首を振り、そんな二人の様子を見た雪ノ下はこめかみに指をあててため息をついた。 15 ID:rJWw4fQ40 「あなたたち……今まで夏休みの合宿の費用などはどのようにして賄われていると思っていたの?」 そう言われればよく考えてみると俺、あの合宿のお金とか特に払ってなかったな。 由比ヶ浜ははっとした様子で何かを 思い出したようだ。 どうやら彼女の方はただ単に忘れていただけみたいだ。 18 ID:rJWw4fQ40 「……あなたたちにはもう少し高次元での争いをしてほしいところだわ」 「……」 目を瞑り首を振りながら答える雪ノ下。 そう、争いとは同じレベルの間でしか発生しない。 ということでここは鞘を 収めるのが吉だ。 由比ヶ浜と同レベルと思われないようにするには。 向こうも同じことを考えたらしく黙ってくれた。 しかし、あの合宿の費用が部費で賄われているのはいいとしても、葉山グループの分はどういう計算になっているの だろう?確か三浦あたりがタダとか言ってたような。 そっちの分まで部費から支払われていたとするならなんか嫌だな。 小町や戸塚のためならいくらでも使って構わないが。 なるほど……そこをツッコむと墓穴を掘ることになるのか。 小町 なんて完全に部外者なわけだし。 ……己の保身のためにもあまり深いことは考えないようにしよう。 76 ID:rJWw4fQ40 「しかし雪ノ下……部費というものがあるんだったら、さ。 例えば」 「あなたに平塚先生をだまくらかす能力でもおありとお考えで?」 使途不明金にすることまでしっかり先読みされてました。 ……怖えよ。 「ありません。 何でもありません。 部費は正当な目的でのみ使用されるべきですね」 「よろしい」 「……」 意外にも俺ではなく由比ヶ浜が何か釈然としない様子で雪ノ下の方を見た。 46 ID:rJWw4fQ40 「……何か?」 「えっと……ゆきのんは……今日部活終わったあと時間ある?」 「あまり長くならないのなら……それが?」 「ちょっと二人だけで話があるというか……」 「……わかったわ」 次に続く言葉を待っていたのが顔に出てしまったのか、雪ノ下がこちらを向く。 「別に急ぎの用事というわけでもないんだから、あなたが心配するようなことはないわよ」 「え?ああ……」 てっきり今すぐ追い出される勢いだと思ってたぜ。 まだ紅茶も全部飲んでないしそれは困る。 57 ID:rJWw4fQ40 とりあえず話すこともなくなり、ティータイムを適当なところで終わらせた後は相談メールがないかの確認をする。 しかし今日のところはそういったものも特になく、残りの時間は例によって読書をして過ごす。 近頃は日が短いせいか、ますます時の流れが速く感じられた。 部活動の終了の時刻の鐘が鳴ると、ぱたっと本の閉じられる音がする。 「……では今日はこのあたりで。 私は鍵を職員室に返しに行くから由比ヶ浜さんは昇降口で待っていてくれる?」 「うん」 皆が帰る支度を済ませ、扉の前に立つと雪ノ下が挨拶する。 「比企谷くん、また明日」 あ、そっか。 由比ヶ浜はまだ一緒にいるんだっけか。 「おう、また明日、由比ヶ浜も」 「うん、また明日ね」 こんなルーチンでしかなさそうな挨拶でさえ、1週間しかもたないとはこの時の自分はまだ気づいていなかった。 散発的 に無意味なPNのメールが送られてはくるが、まぁその場ですぐ返信できるような類のものばかりだった。 というか メールじゃなくて原稿を書けよ、材木座。 もういっそのことメールを小説にしたらどうなんだ。 ケータイ小説なんて ものがあるくらいなんだからメール小説があってもよかろう。 スイーツ 笑 な人たちにウケること間違いなし。 しかし、 材木座の筆力ではせいぜい『変空』となるのが関の山か……。 今日も三人して机の上のPCを覗き込む。 65 ID:rJWw4fQ40 確かに俺はいわゆる中二病を患っていないこともなかったが、作家病になったことはないんだよな。 ちゃんとした小説 を書いたことがあるわけでもあるまいし。 しかし、材木座のそれもとてもちゃんとした小説などと呼べるような代物 でもないので、俺程度が相手してればそれでいいのかもしれない。 俺が思案に暮れていると、由比ヶ浜がメールを 読み上げていく。 『小説で恋愛シーンを書きたいのだが、我は恋愛をしたことがないのでどうやって書いたらいいのか途方に暮れている。 書き方をご教示願いたい』 「何を言ってんだ、こいつは」 思わず、口に出してツッコミを入れてしまった。 しかし今回は意外にもこいつに共感した人間がいたらしい。 66 ID:rJWw4fQ40 ふむ。 どうやら三人とも小説という物を何か勘違いしておられるようでいらっしゃる。 読書家の雪ノ下なら気づいても よさそうなものなのに。 俺の密やかな優越感が顔に出てしまったようで、雪ノ下は不満気に言う。 「あなたはこのメールに答えられる用意ができているようね」 「ヒッキーのことだから、どうせまたロクでもないことなんでしょ?」 なかなかストレートに酷いことを言うな、由比ヶ浜は。 むしろこのやり取りに関して言えばロクでもないのは大抵が 材木座のような気がするんだが。 「失礼な。 88 ID:rJWw4fQ40 「いいか?小説なんてものは伝記とかルポとかを除けば基本はフィクション、つまりはウソだ。 だから、作者が経験が ないからといって書けないなどというのは言い訳にもならない」 「なるほど。 小説が想像の産物である以上、現実にそれを体験してなければ書けないというものではないわね」 「で、でもさ~……い、一応小説っていっても何?リアリティっていうか、そういうのも必要なんじゃないの?」 由比ヶ浜にしてはえらくマトモな指摘をしてきたので驚いた。 雪ノ下も目を丸くしている。 「確かに、小説のジャンルによってはそういうのも必要だな。 医療ものとかはある程度の専門知識が要求されるだろうし 実際の医者が書いているなんてことまである」 「しかし……しかしだな。 今回の相談相手は材木座だ。 94 ID:rJWw4fQ40 全力で首を振る由比ヶ浜と頭を抱える雪ノ下。 ほらな、俺は別にロクでもないことを言っているわけじゃない。 「だからそんなものは想像というか妄想して書くしかないんだよ、方法としては。 むしろ自由度でいえば未経験者 の方が有利とさえいえるのかもしれん」 「それは過去の経験……つまり現実に縛られなくていい、ということかしら」 「そういうことだ。 例えば、海老名さんなんか見てみろよ……BLなんて妄想の極致ともいえる自由さじゃないか。 書いてる本人が女だから経験しようがないし」 そう、あんなものはリアリティの欠片もないし、またそこがいいんだろう。 だから、はやはちとか絶対にあり得ない。 「た、確かにそうかも……」 「以前も断片的には聞いたような気がするけれど……それは、その……男性同士の恋愛ものってことでいいのかしら」 「まぁ端的にいえばそうだな。 06 ID:rJWw4fQ40 そういう言い方もできるのか。 なんかほんとに表現の仕方ひとつで印象って変わるもんなんだな。 なんだか賢い人間 がやっている遊びのように思えてくる。 由比ヶ浜も同じ感想だったのか、何か感心した様子でつぶやく。 「姫菜って普段そんなことしてたんだ……な、なんか凄いかも」 「まぁ凄いことは凄い、か……別の意味で。 ともかく、俺が言いたかったのは下手に経験してない方が自由に想像できて 理想を追求できるってことだな。 だから、むしろその方が好きなように書けていいはずだ。 材木座にとっても」 そうさ。 小説なんて一種の願望実現器なんだからそれくらいのことをしてもいいはずだ。 「想像の中で理想を追求…………私にはいまいち理解しがたい発想ね。 私は想像して済ませるよりそれを現実のもの とするべく努力した方が良いように思えるけど」 ……そうか。 なんで雪ノ下が小説を書く側の発想に立ったことがないのかがわかった。 彼女は「人ごとこの世界を 変える」とか言っちゃう子でした。 超リアリストなのか誇大妄想狂なのか、もはや俺には区別できん。 03 ID:rJWw4fQ40 「ゆ、ゆきのんみたいに考えられる人は少ないよ……」 「そう……なのでしょうね」 そりゃいくら自分が正しいと思ったとしてもだからといって世界ごと変えようなんて考える奴は稀だよな。 ただ、 雪ノ下の周りの世界はこの半年だけでもだいぶ変わったような気はする。 それは単に俺が雪ノ下のそれこそ妄想 じみた考えにあてられてしまっているだけなのかもしれないが。 「とりあえず、比企谷くんの考えは概ね理解したわ」 「……じゃあ、返信してしまうけどそれでいいか?」 「あなたに任せる」 『小説は想像の産物なので、経験とは直接関係ありません。 むしろ自分のしたいと思う恋愛模様を描写すればよいかと 思います。 具体的な描写の仕方は他の恋愛小説でも参考にすればいいでしょう。 どうしても恋愛経験を積みたいの であれば、今はいくらでも擬似的な体験ができるのでそういうものを利用するのも一考です。 51 ID:rJWw4fQ40 「途中まで良いこと言ってると思ったのにどうして最後にそういうこと書いちゃうのかな、ヒッキーは……」 「もうこれはこの男の習性みたいなものだから修正は困難よ……」 キーを叩く俺の目の前のPC画面を見ながらあきれている二人。 もはやこの様子も完全に日常の一部と化してしまって いる。 だから、その反応も無視してメールの送信をクリックする。 送信画面からホームに戻ると、今日はもう1件メールが届いていた。 普段はほぼ知っている人間からしか来ないので、 発信元もよく確認せずにそのメールを開いてしまった。 その途端、ガタッと椅子の動く音がした。 ……雪ノ下か? PCの画面を見るとこんなメールが表示されていた。 雪ノ下は肩をすくめて何故かこちらを向いた。 「……」 「え?何?……なんか俺が悪いとかそういう流れなの?これ」 「……まだ私は何も言ってないわよ」 雪ノ下はふうっと息をついてからそうつぶやく。 困った表情、なんだよな……これは。 別に怒っているのではないらしい。 「……ゆきのん?」 俺と雪ノ下を交互に見た後、心配そうな顔で彼女に後の言葉を促す由比ヶ浜。 「ん……私のクラスの女子が面白半分に送った、そんなところでしょう。 別にあなたが気にするようなことじゃないわ」 「でも…………あれ?ゆきのんどうして自分のクラスの人ってわかったの?」 ……そういえばそれもそうだ。 見覚えのあるPNというわけでもないし。 この『愛の次』の音を読んでそのまま解釈すればいいだけのこと」 「『愛の次』……『アイノツギ』……アルファベットでIの次はJ……ってことか」 「な、なるほど……」 「そういうこと」 「で、でも……なんでこんなメールを直接奉仕部に送ったりしたのかな?」 「それは私にもわからないわ。 ただ、こういう噂話が好きな人はどこにでもいるから……」 いや全くその通りだな。 ゴシップが好きな人間というのは本当にどこにでもいるから困る。 そうじゃなきゃ週刊誌は こんなに売れてないだろうし、俺の黒歴史もここまで量産されていないはず……いないはず、多分。 むしろそういう 話にちょっと興味のありそうな由比ヶ浜は雪ノ下の言葉に少ししょんぼりしていた。 J組の人間の仕業というのを聞いて 俺は修学旅行の夜の雪ノ下との会話をなんとなく思い出す。 雪ノ下ならたとえそういう噂が流れたとしてもバッサリと否定すればそれで済みそうな気が するんだが。 ただ、噂自体がなくなるかというとそれはまた別問題か。 だからこそ、このようなメールという形で真相を 問い質しにきたのかもしれない。 「……なんか悪かったな。 風評被害みたいなことになってて」 「い、いえ……あなたが謝る必要は……」 声が小さくなり反対側を向いてしまったので、その表情はうかがい知れない。 俺も男女二人組を勝手にカップル認定して呪詛を唱えて いたことがあるから発想としては全く理解できないものでもない。 それにJ組の中では文化祭の相模の一件と俺のこと はイコールで結ばれてはいないのだろう。 部活と文実が同じで俺が彼女の補佐をしていたことは事実だ。 状況証拠と しては十分なのか…………。 さて、どうしたものかな。 「……いや、たぶんそんなことをしても無駄だろう。 その前に噂になっている本人が否定している筈だから」 否定している筈、だよな。 ……そうであると言ってくれよ、雪ノ下。 当の本人は黙ったままなので俺は話を続ける。 「それでもまだこんなことをしているということは、送った本人の中で勝手に事実が積み上げられているんだろう」 「お、思い込みが激しいとかそういうこと?」 「まぁ、そんな感じだろうな」 「じゃ、じゃあ……このまま……何もしないの?」 「まぁ……時間の流れに任せて噂が風化するのもひとつの手ではあるんだろうな。 でも、それは嫌だろう?雪ノ下」 彼女は顔を窓の外の方に向けたまま、何も言わずにただ頷いた。 「噂を否定する方法なら他にもある。 すぐに終わることだから、俺に任せてくれないか?」 「え?で、でも……」 由比ヶ浜が俺と雪ノ下の方を交互に見ながら不安そうな顔で何か言いかけるので、俺はそれを遮る。 「これは由比ヶ浜や雪ノ下が事前にやり方を知っていると意味がないんだ。 私はあなたに任せる」 今度は俺の言葉が終わる前にこちらに向き直った雪ノ下が口を開く。 彼女が俺に何かを託す時のいつもの表情だった。 「……ゆきのんがいいって言うなら……あたしは……いい、けど……」 一方の由比ヶ浜はまだ何か納得していない様子。 その顔は明らかにNOと言っていた。 しかし俺はそれを無視する。 「じゃあそういうことで。 とりあえずこのメールはそのままにして、俺の作戦は今日帰る時にやる。 だから、雪ノ下 は鍵を返したら昇降口に来てくれ。 俺と由比ヶ浜で待っているから」 「え?あ……うん……」 由比ヶ浜は急に自分の名前が出てきたせいか一瞬驚いたようだが、既に了承してしまったのを思い出したのかそれ以上 は何も言ってはこなかった。 誰か依頼者が来るということもなく、鐘が鳴って部活の時間は終わる。 全員が帰る準備を済ませ、部屋から出ると雪ノ下が部室の施錠をする。 その後ろ姿を尻目に俺は確認のため声をかける。 「じゃあ雪ノ下。 あとで昇降口に」 「はいはい」 「じゃ、じゃあまた……」 すぐにまた合流するのにもう別れるような挨拶を何故か雪ノ下に向かって言う由比ヶ浜と先に昇降口に行く。 廊下を歩いている途中、後ろから急に俺の制服の裾をつままれたので一度足をとめる。 ついでに話の 内容もチグハグなので振り返って訊き返してみる。 「だ……だってさ……ゆきのんだったらこんなことになる前にきちんと否定しそうな感じするし……」 由比ヶ浜もさっき俺が抱いた疑問と同じことを思ったらしい。 しかしその言葉を言っている時の彼女の表情は何かもっと 確信があるような感じさえした。 まぁ、だから何だというのだ。 雪ノ下があの噂を否定したくないなんてことは万が一 にもないとは思うが、仮にそうだったとしてもこれから俺がやることに変化があるわけでもない。 「否定したところで、噂ってすぐやむものでもないしな。 それに俺にとっても雪ノ下がそんな噂に晒されているのを 見ていい気分はしない。 俺と付き合っているだなんて悪評以外の何物でもない」 「そういうことじゃなくてさ……そういうことじゃなくて……」 由比ヶ浜は目を逸らしてスカートの裾をいじっている。 次の言葉がなかなか出てこないので俺が話を切る。 「当の雪ノ下からはもう了承を得たんだ。 お前がそんなに気にするようなことでもないだろ」 「そうかもしれないけど……」 「話は後でな。 それ以降はお互いに 黙ったままでそのまま昇降口に着いてしまった。 この時間帯のこの場所は部活終わりということで授業後の次の混雑の ピークだ。 別れの挨拶をする人や雑談、ロッカーがバタバタいう音や靴を下に落とす音などで少し騒々しい。 反対側の 壁際で雪ノ下が来るのを二人で待っていると、ほどなくしてその姿が現れる。 J組の女子もいたのかこちらに向かって くる途中で挨拶を交わしていた。 まぁ、その方が俺としても好都合だ。 こちらと目が合うと由比ヶ浜の方から 「ゆきのん、やっはろー」 「さっきまで一緒にいたじゃないの……」 「まぁまぁ、いいじゃんいいじゃん」 彼女は先ほどの浮かない表情とは一転して元気に見えるように挨拶した。 俺も軽く頭だけ下げる。 「それで……私はどうすればいいのかしら」 「そうだな……とりあえず先に靴は履き換えちゃってくれ。 雪ノ下が自分のクラスの下駄箱に 向かうと俺と由比ヶ浜があとに続く。 ロッカーを開けて靴を取りだし、下に置く雪ノ下のその手の動きに思わず目がいく。 ただ靴を履き替えるってだけの行為にこんなに身のこなしというものが現れるもんなのだろうか。 どうでもいいけど 雪ノ下って靴も上履きもいつも綺麗にしてるんだな。 俺なんて前にいつ洗ったのか思い出せないくらいなのに。 そんな ことを考えているうちにロッカーの閉じる音がして彼女の帰り支度は整う。 なんとなくこちらの雰囲気を察したのか 周囲の喧騒が大人しくなった。 俺は雪ノ下雪乃さんのことが好きでした。 誰かと誰かが恋仲である、あるいは付き合っているという噂を否定するにはどうしたらよいで しょうか。 本人たちがその噂を否定する、というのはあまり効果がありません。 少なくともこれで両想いという噂はハッキリ否定できる。 俺が短期間に二人の女子に告白したとかは瑣末な問題だ。 元から俺の評判など地に落ちているも同然だし。 そして相手は 校内一との呼び声も高い美少女である雪ノ下雪乃。 男子に告白されるということ自体が珍しいというわけでもない。 した がって、彼女の評判が落ちるなどということはなくむしろ『また身の程知らずな男子が雪ノ下雪乃に告って玉砕した らしいよ~ケラケラケラ』と告白した方が馬鹿にされるだけである。 何も問題はない。 氷の女王らしく。 冷めた目で。 見下ろすように。 突き刺さるような言葉で。 もう 希望など持てないような言葉で。 ハッキリと断られると思っていたのに。 なのに…… どうしてその目に涙を浮かべているんだ。 どうして目を逸らすんだ。 どうして鞄を持つその手が震えているんだ。 その背中は頼りなげでとても氷の女王などと呼べるようなそれではなかった。 「ハッ」 想定外の反応に俺は自嘲じみた変な笑いが出てしまい、後ろを振り返った。 その瞬間 パシッ 左頬に衝撃が走った。 反射的に手を頬にやって向き直ると肩を震わせている由比ヶ浜の姿が見えた。 その目から は今にも涙が零れ落ちそうだった。 周囲の目がこちらに来るのを感じていると由比ヶ浜は途切れ途切れに話しだす。 さっきまで噛んでいた唇が離れて無理やり口角を上げようとしているのが見るからに痛々しい。 「確かに……確かにあたしは……あたしの……ヒッキーの印象は変わらないって言ったかもしれない」 「けど…………何もこんなことしなくても…………誰もこんなこと望んでないよ……」 涙をこらえるためか伏していた顔を上げてこちらを真正面から見据え直す。 はぁっとため息をついた後、俺に背を向けるとF組 のロッカーに向けて足早に去って行ってしまった。 止まっていた時間がまた動き出したかのように周囲の喧騒が元に戻る。 俺にとってはある意味日常のヒソヒソ声も。 肩に かけている鞄がやけに重い。 カタオモイ。 終わったな。 色々な意味で。 ……なんか自分の思っていた展開と違うけれど、当初の目的は達成されたのだから良しと しよう。 始まりがあるものにはいつか終りが来る。 それがほんの少し早くなっただけのことだ。 大丈夫だ、問題ない。 ただ……ただ単に元に戻っただけの話だ。 いや、俺の評判はますます落ちるんだろうがそんなことはどうでもいいか。 …………自分も帰るか。 明日から部活、どうしようか。 行かなかったら平塚先生に無理やり連れ戻されるのかな。 そんな ことになったら他の部員が可哀相だ。 何か理由を考えとかなきゃいけないな。 ふぅーっと長い息をついた後、自分のクラスのロッカーの方へ歩き出す。 その途中で俺に視線を突き刺す人間の存在 に気づく。 こんなところで出くわしたくなかったな……。 いや、そもそも俺はこいつのことが嫌いだった。 確かお前もそうだっただろう……………………葉山隼人。 目で殺す、とはああいう視線のことを言うんだろう。 三浦がコブラなら葉山はバジリスクか何かなの?リア充グループの リーダーになるには自身に蛇でも宿らせないといけないの? 一瞬だけ目が合ったので殺されない程度に睨みかえし、そのまま彼の横を通り過ぎようとする。 すると鞄の持ち手が 引かれて肩から落ちそうになった。 慌てて引き戻していったん足を止めて文句を言う。 「何すんだよ、いきなり」 「話がある。 比企谷、ちょっと来い」 「ちょっ、痛い痛いって!おい!」 今度は服の袖を掴まれて無理やり引っ張られていく。 腕を振ってその手を払いのけるとさっきと変わらない目つきで彼は 言う。 また周囲の目がこっちに向かっている。 勘弁してくれよ、もう。 67 ID:DhAdM5VR0 俺は潔く諦めてずんずん進んでいく葉山の後を追う。 昇降口から遠ざかり、校舎を移動し階段を上り、だんだん人気も 少なくなっていき、とうとう特別棟の屋上に辿りついてしまった。 葉山が扉を開けると寒風が吹きこむ。 「……ここなら誰にも話を聴かれる心配もないだろう」 「はぁ……」 女子の間では鍵が壊れていることは割と有名なんじゃなかったっけ?確か川崎がそう言っていた。 まぁ、この時間帯なら 他に人はいないんだろうけどさ。 というか色々と寒いからさっさと終わらせてほしい。 「……話なら手短に頼む」 「それは君の返答次第だよ」 まるで警察の取り調べでも受けている気分だ。 いや、単なるイメージでしかないけど短く済ませようすると罪を認めない といけないみたいな。 それでも僕はやってない。 ……と、とりあえず犯罪行為はしてないぞ。 それともこれから罪を犯す のかな。 マイノリティ・リポートかよ。 確かに俺はマイノリティかもしれないけど。 「何を考えている」 「いや、どうでもいいことだよ」 「どうでもいいってことはないだろ」 急に語気が強くなる葉山。 あ、これは食い違ってますね。 何を考えているってさっきの行動の意図を訊いていたのね。 01 ID:DhAdM5VR0 「どうでもいいっていったのはちょうど今頭の中に浮かんでいたことだよ。 さっき下で俺がやったことについてじゃない」 「ん、それは悪かった……勘違いしてしまって。 ……それで、何を考えてあんなことをしたんだ」 「最近のJ組の間で『俺と雪ノ下が付き合っている』なんて妙な噂が流れているらしくてな、それを否定するためだ」 「俺もそういう噂を耳にしたことがないとは言わないが…………雪ノ下さんがこんなことを頼んだのか?」 「まさか。 今日奉仕部に直接それを尋ねてきたメールがあったんだよ。 だから俺が対策を立案し、実行した」 「…………また、事前には何も言わず、か」 「そりゃそうだ。 あの雪ノ下に演技させるなんて酷な話だろ?」 俺のその言葉を聞いて、下におろしていた葉山の手がぎゅっと握られる。 「その結果があれ、か。 君は何も思わなかったのか?二人の反応を見て」 だんだん答えたくない領域の質問になってきたな。 俺は頭の向きを少しだけ横に変えて答える。 27 ID:DhAdM5VR0 「まだ認めないつもりなのか。 それなら俺が言ってあげよう。 雪ノ下さんと結衣は」 「やめろ」 やめろ。 それ以上聞きたくない。 それを葉山の口からなんて。 本人ならまだしも。 それを言われてハッキリ否定できる 自信が俺にはもうないのに。 「比企谷のことが…………好きなのに」 扉の横にもたれていた俺は、崩れ落ちた。 28 ID:DhAdM5VR0 もう、戻れない。 昨日までの奉仕部には。 既にわかっていたことではあった。 しかし、まだ自分の中だけなら誤魔化す こともできたのに。 もう、それも叶わなくなってしまった。 「なんで……わざわざそんなこと言うんだお前は…………」 しゃがんだ状態の俺を見下ろしていた葉山は自分も腰を落として目線を同じにして真顔でこう答える。 「君に……幸せになってほしいからだよ」 「ハッ!何を言い出すかと思えば……その白々しさには反吐が出るわ。 お前にだけはそんなこと言われたくなかった」 そう。 そんな奴に……そんな奴に…… 「確かに、今の状態ではそう言われても全然おかしくない。 むしろなじられるべきなのは俺の方だ」 「じゃあ、どうして…………」 「君にいつまでもこんなことをさせ続けられては俺としても困るからね…………もはや君の問題はとうに君自身だけの 問題ではなくなっている」 ああ……なんか文化祭後の平塚先生にも似たようなことを言われたっけな。 でも、それをただ口に出されても俺としては どうしようもないんですけど。 69 ID:DhAdM5VR0 「そういう風に思ってくれるのはありがたいお話かもしれないがな……お前が俺のために何かできるわけじゃないだろう」 「今までの俺なら、そうだった。 でも、もう決心がついた。 このままじゃ、比企谷くんだけじゃなく結衣や雪ノ下さん まで壊れてしまうから」 別に俺は壊れない、と言おうとしたのにその二人の名前を出されて何故か反論できなくなってしまった。 「俺は選ぶことにするよ」 「……何をだよ」 一度深呼吸をして息を整え、再びこちらを真っ直ぐ見据えて葉山はこう言った。 25 ID:DhAdM5VR0 いやいやいやいや、何言っちゃてんのコイツ。 頭イッチャッたのか?君を選ぶとか言われても訳分からんし。 同性愛の 趣味でもあったんですか?もしそうだとしたら海老名さんは類稀なる慧眼の持ち主だな。 俺が困惑の表情を浮かべて いると葉山は話を続ける。 「そりゃ今の君にはわからないだろうさ。 でも、上手くいけば明日のこの時間にはその意味が理解できるはずだ」 「ずいぶんと持って回った言い方だな。 先に何をするか教えてくれてもよさそうなものなのに」 「…………君と同じことをするだけだ」 「そうですか……」 そう言われてしまうとそれはそれでお互い様なので追及のしようがない。 しかし、俺が取った方法というのは俺だから できるのであって普通の人間には……ましてや葉山みたいなトップカーストの人間には無理があるんじゃないのか? 怪訝な顔の俺をよそに葉山はまた立ちあがり、少しだけ屋上の中央側に歩き、こちらに背中を向けてこう語る。 「……君たちはまだやり直せる……いや、もっと先へ進めるといった方が正確かな。 それは俺が今までどんなに望んでも できなかったことだ。 結局のところ俺は他人に嫌われるという覚悟があまりにもなさすぎた」 「何を言ってるんだお前。 誰からも好かれるのならその方がいいに決まってんじゃねぇか。 それはそれでひとつの才能 みたいなもんだろ」 なんか贅沢な悩みを聞いているような気がした。 まるで俺が好き好んで他人から嫌われているみたいじゃないか。 37 ID:DhAdM5VR0 「本当に誰からも好かれるのであれば、そうかもしれないな」 似たような言葉をどこかで聞いた覚えがある。 奉仕部という部活に足を踏み入れて間もない頃、部長である雪ノ下雪乃 が言っていたな…………しかし、それは嫉妬や恨みを買うとかそういう話だった。 それなら、葉山の方はというと? 「本当に自分が好かれたいと思う相手には、絶対に好かれることはないんだ。 俺の場合は」 驚いたな。 葉山がそんなこと思うような相手がいただなんて。 そういえば、好きな人がいるという話を以前夏休みの時 にしていたっけ。 でもお前なら、たぶんまだやれることが色々とあるだろうに。 「その相手が今の葉山を嫌っていて、相手に心境の変化が期待できないんなら…………自分が変わるしかないだろ」 「君の言う通りさ。 だから、俺は変わる…………ほんの少しかもしれないけど」 「……それはお前の勝手にすればいいが…………例えば、俺なんかのために何か犠牲にしたりするなよ」 「それはこっちのセリフだよ」 「……」 俺が自分で自分を犠牲にしている以上、葉山がそうすることに異議を唱える権利はなかった。 91 ID:DhAdM5VR0 「それにこれは俺が勝手にやることだから、比企谷のためとは言っても君に直接何か関係あるわけじゃない。 所詮 は自己満足に過ぎないことは承知している。 だから、ただ君は俺の行動を見ていてくれればそれでいい。 明日の部活 終わりの時間、君も昇降口にいてくれ」 「えっ?俺はまだ……」 一方的に告げられた待ち合わせに俺が口を挟もうとしたが、葉山はもう向き直って扉の前まで戻ってきた。 こちらが 続ける前に彼がまた口を開く。 白い歯を見せ爽やかな笑顔でこう言う。 「あとそうだ…………君は君でいい加減に他人から好かれる覚悟をすべきだと思うよ」 ただ呆然とする俺をそのまま残して葉山は扉を開けて階段を下りていってしまった。 「随分とまぁ…………好き勝手に言いやがって……葉山の奴……」 相変わらず寒風の吹く音で扉がガタガタと揺れていたが、その空は曇ってはいなかった。 17 ID:DhAdM5VR0 翌日の俺の状況はというと、まぁ想定内というか予想通りというか案の定というか…………。 視線の痛さとヒソヒソ話 が少し増えたくらいのことである。 俺なら慣れてる。 だから平気。 うん、大丈夫。 あらかじめわかっていることなら心の 準備というものができているから、それほど辛くはないのである。 お化け屋敷だってお化けの出る位置と脅かし方が先に わかっていたら怖くもなんともないはずだ。 お化け屋敷……修学旅行で由比ヶ浜と川崎に服を掴まれたのを思い出す。 何気なく川崎の席の方に視線をやると、またしてもパッと目を逸らされてしまった。 ……なんかしたか?俺。 しかし、 この前の視線とは違う感じがした。 何か心配でもされているような…………ま、気のせいだろ。 2週間と経たずして違う女子に告るというなんともはや軽い男になった自分。 これ以上軽くなったらヘリウム風船みたい に浮いちゃうかな。 もう存在自体はとっくの昔から浮いてるかもしらんが。 さすがに戸塚ですらこの空気を感じ取ったのか朝に俺に話しかけたりすることはなかった。 それよりも何よりあの戸塚に 怪訝な目で見られることの方が自分にとっては衝撃だった。 やっぱりある程度近しくなった人間にああいう視線を送ら れるのはかなりキツイものがある。 ああ、そうだ……こういうことが嫌だったから俺は人とあまり関わらないようにして きたんだっけ。 それだけが理由ってわけでもないが。 由比ヶ浜は…………そもそも俺が彼女の方を見れていないので、どんな表情をしていたのかはわかるはずもなかった。 俺が教室を 出る準備を終える頃には由比ヶ浜はもうそこから出ていってしまっていた。 まぁ、俺としてもたぶんその方が好都合だ。 部活か…………とりあえず一日くらいなら体調不良とか適当な理由で誤魔化せるだろう。 実際問題、今からあそこに行 ったら胃が痛くなりそうだ。 保健室にでも行くか。 いや……おかしいな、それだと。 部活を休むくらいなんだからさっさ と帰れという話になる。 しかし、今日はこのまま帰るわけにも行かなかった。 葉山から一方的に交わされた約束、という より命令といった方が良さそうな…………とにかく部活が終わる時間に昇降口に行かなければならない。 そうなると、 部活を休む口実として体調不良というのも使えないのか。 まったく余計なことをしてくれやがって。 ここで無視して 帰ろうとしないあたり、律儀というか由比ヶ浜の言う変なところ真面目ってやつなんだろうか。 まぁ、俺としても何回 か彼の能力の助けを借りたことがないわけでもないから、あまり無碍にするのもどうかと思うしね。 どのみちあの手の 人間に貸しをつくるのも癪だ。 だから…………仕方ない。 教室を出て特に行くあてもなく廊下を歩き、人気のない方に進んでいくと、なんとなく昨日拉致された特別棟の屋上に 着いてしまった。 やっぱり今日も誰もいないか。 時々吹きつける寒風が何故か快く感じられる。 そうだ、冷たい目も 冷たい風も自然現象と思えばそんなに辛くないはずだ…………たぶん。 無理やりな理屈で自分を納得させていると不意 に上の方から足音が聞こえてきた。 11 ID:fbYqBXpR0 足音のする方に振り返るとそこには以前に見たのと同じような光景が広がっていた。 青みがかった長いポニーテールの髪。 冷めた瞳。 すらりと伸びた長い脚。 そして、アングル的にその…………スカートの中が…………幸いにも?今回は黒の レースではなくて体操服のハーフパンツでした。 パンツじゃないから恥ずかしくないもん!いやいや、そういう問題では なく女子のスカートの中が見えてしまうというのは中身がどうとかいうことではなく気恥ずかしいものである。 反射的に 目をそらすと、こちらの視線のことなど意に介せず川崎はもたれていた給水塔から離れて下の梯子を使ってこちらの方に 降りてきた。 俺が顔を正面に向ける前に彼女は話し始める。 「何考えてんの?あんたは」 「な、何、というのは……」 こういうのは俺の嫌いなセリフだ。 表面上疑問形だが、実態は反語でそのまま答えようとするとたいていの場合怒られる。 先生の言う「何で宿題やって来なかったんだ!」と種類的には同じである。 91 ID:fbYqBXpR0 「修学旅行の時と昨日あんたがやったこと」 ……彼女の場合、別に怒っているわけではないんだろうが無愛想で言い方がぶっきらぼうなのでどうしてもこちらは委縮 してしまう。 いや…………やっぱり怒っている? 「お前には…………別に関係のないことだろ」 「確かにね。 まったく事情を知らないならたぶんあたしもあんたにこんなこと訊かなかったと思う」 「でも、昨日…………あたしはあんたが葉山と話してるのを聞いてしまったから…………」 「え?」 彼女は少し気まずそうな顔をしてそう言った。 おいおいおいおい、昨日俺と葉山が話しているのを聞いたってことは由比 ヶ浜や雪ノ下がどう思っているか、とかも…………いやいや、というかそもそもどこにいたんだっつうの。 ……まさか。 「お前……もしかして昨日もここに……」 彼女は何も言わずにただ頷いた。 う~ん……ぼっちにはステルス機能が標準装備されてでもいるんだろうか。 戦闘機か 何かか。 いや、雪ノ下みたいな奴もいたか。 彼女は存在そのものが爆弾みたいなものだが。 91 ID:fbYqBXpR0 「い、いや……仮にそうだったとして……やはり俺がお前に自分の考えを言う必要性はないように思えるんだが」 「他人の事情には勝手に首を突っ込んでおいて……」 川崎にはそう言われると反論できないな。 基本的に奉仕部の依頼は悩みのある本人が直接相談しに来るものだが、彼女の 場合は弟経由でこちらが一方的に家庭の事情を聞きだしたようなものだった。 それは彼女からしてみれば知られたくない ことではあったのだろう。 そうなると、こちらも答えなくてはいけないのか?しかし…………何を? 「そちらの家庭のこととかをお前の望まない形で聞き出したのは、その……悪かった」 「あたしが言いたいのはそのことを謝ってほしいんじゃなくて……その…………本気だったの?あれは」 「あれって?」 「だ、だから……あんたが海老名と雪ノ下に…………」 「まさか。 芝居だよ。 ちょっと色々と込み入った事情があってだな……」 「そう……」 俺がそう答えると、川崎は残念と思ったのかほっとしたのか……何かを悟ったかのような顔をした。 その表情はどこか 寂しげで、元々冷たかったというよりは何か熱が冷めて冷たくなったような感じがした。 89 ID:fbYqBXpR0 「どういう事情かまで訊く気はないけどさ…………芝居でも……あまりそういうこと言うもんじゃないよ」 「はい……」 「あんたこのままだと…………たぶん狼少年になる」 ……まったく耳の痛い指摘だ。 たまたま俺は一人だったから嘘をつく必要性がなかったというだけであって、もう心の どこかで人間関係を維持するための嘘というものを認めてしまっている気がした。 しかし、結局はその嘘によって信頼 関係を失ってしまう。 いずれにせよ失うのであれば、やはり本当のことを言った方がいいのだろうか。 そういう考えが 浮かんでも、俺の口から出る次の言葉はまた心にもないことだった。 「俺は狼少年というより一匹狼って感じだと思うけどな」 「……あんたのどこが一匹狼なんだか」 「……」 ですよね。 これではもはや単なる嫌味でしかない。 本当の一匹狼の川崎からしてみれば。 俺は否定することができず に黙り込んでしまった。 27 ID:fbYqBXpR0 「ま……本当のことを言った方が良い時もあるんじゃないの?あんたのためにもその周りの人間のためにも」 「…………そういうものですかね」 「さぁ?元々嘘でつながれた関係なら違うのかもしれないけど」 「……」 ……彼女は既に理解している。 俺とその周りの人間の関係の成り立ち方について。 彼女自身も俺と似た考えを持って いるせいなのかもしれない。 嘘や欺瞞によってつくられた人間関係を嫌悪するという考えを。 だから、今現在の俺として はこう答えるしかない。 「本当のことを言うしかないか。 その時が来たら」 「その時が来たら、か」 もうその時は来ていると言わんばかりの川崎の口調に俺も心の中では半ば同意せざるを得ない。 しかし……俺にはまだ 考えなければならないことが山ほどある。 それに、葉山が何をするかにもよってそれも変わってくるだろうし。 だから これが嘘でない範囲で答えられる精いっぱいだった。 83 ID:fbYqBXpR0 「…………あんまり女子を待たせるもんじゃないよ」 「そうならないように努める」 「そ。 …………じゃあさよなら」 「さ、さよなら……」 あきれたような表情の川崎は俺が挨拶を返す前にもう振り返ってしまい、さっさと扉を開けて足早に階段を下りていって しまった。 ……思ってもみなかった人間に、着々と退路を断たれていっているような気がする。 もうこれ以上人に会い たくないな。 まだこれから葉山に会いに行かなきゃいけないのに。 ため息が出て、しばらくして俺は屋上を後にした。 一度誰もいない教室に戻り、あいている時間を適当に宿題などをやりながらやり過ごして部活が終わる時刻を待つ。 そう いえば、もう少ししたら期末試験だな。 試験準備期間に入りさえすれば、部活にも行かずに済むんだが。 学校の試験を 待ちわびるなんて俺の頭も相当イカれてきていると感じる。 葉山みたいにイカしてればいいんだが。 54 ID:fbYqBXpR0 そのイカした葉山に再び会わないといけない時間がやってきたので、やけに重く感じる鞄を肩にかけて俺は昇降口に 向かうことにする。 ……よく考えたら、というかよく考えなくても部活終わりに昇降口って普通に雪ノ下や由比ヶ浜と 鉢合わせになる可能性があるじゃないか。 …………ますます肩の荷が重くなった。 猫背が余計に酷くなりながら、ようやく昇降口に辿りつくと壁際に立っているクールな爽やかイケメンと目が合った。 「やあ。 君なら来てくれると信じていたよ」 右手を挙げて笑顔でこちらに手招きする葉山。 これが大抵の女子なら喜んで傍にいくのだろう。 残念ながら相手は俺なん ですが。 昨日のことと葉山が目立つということで既に周囲からの視線が集まり始めている。 なんか嫌だなあ。 「はぁ……あまり信用されても困るんですが」 「……君らしい答えだね」 「そうですか……」 肩をすくめる俺にたいして葉山はまた笑顔を返す。 しかし、何かいつもの調子と違う気がした。 何だろう……そわそわ している?動きに落ち着きがないというか……なんかやたら鞄を持ち直したりしているし。 47 ID:fbYqBXpR0 「ところで……俺はいつまでここでこうしていればいいんだ?」 「ん……ちょっと人を待っていてね……たぶんもう少ししたら来ると思うよ。 だから悪いけどここで……」 「……わかった」 五分くらいその場で待っていると、葉山のお目当ての人間が来たのかまた手を挙げる。 その姿を見て思わず声が出る。 「げ」 「げ、とは失礼ね。 今日はあなたがなかなか来ないからずっと待っていたというのに」 「そうだよヒッキー。 授業にはちゃんと出てたのに…………どうして?」 「いや、今日はその……体調がちょっとアレで……その」 ロクな言い訳も考えられずにしどろもどろに俺が答えていると雪ノ下と由比ヶ浜は苦笑いをした。 ついでに葉山も。 二人はともかくお前にそんな表情をされるのは腹が立つ。 俺が怪訝な顔で葉山の方を見ると、 「俺が呼んだんだ。 75 ID:fbYqBXpR0 俺がため息ともつかないような生返事をしていると雪ノ下が葉山の正面に来る。 由比ヶ浜は迷子の子供みたいな顔で ただ彼女の後ろについているだけで何も事情は知らなさそうだ。 葉山のセッティング?が終わったのか彼はいったん 鞄を下に置いた。 雪ノ下に用があるのかと思ったのに何故か先に由比ヶ浜に話しかける。 「結衣。 事情を事前に話せなくてごめん。 先に謝っておくよ」 「え?」 由比ヶ浜は雪ノ下の後ろからこちらを覗き込む。 いやいや、俺も何も知らん。 首を横に振ると今度は雪ノ下の方を見る。 しかしその視線に彼女は無反応を決め込んだ。 由比ヶ浜も諦めたのか、少し顔をうつむかせる。 葉山と雪ノ下が無言で向き合っている様子が、周囲の人間を静かにさせる。 既視感のある光景だ。 ……まさか。 昨日、葉山は俺に「君と同じことをするだけだ」と言っていた。 それは、単にやり方が同じというだけの話であって 本当に文字通りの意味だとは思いもしなかった。 そういえば、葉山の好きな女子はイニシャルがYって言ってたっけ。 葉山は雪ノ下に向かって頭を下げ、よく通る声で告げた。 「雪ノ下雪乃さん……俺はずっとあなたのことが好きでした。 03 ID:fbYqBXpR0 冷たい視線……冷たい声色……雪ノ下のあまりに無碍な反応に、周囲の空気が凍り付く。 あぁ……これこそ俺が彼女に期待していた反応そのものだ。 「……そっか。 ……まぁそうだよね。 悪いね、時間取らせちゃって」 「いえ……ただ…………私、あなたのこと……少し誤解していたみたいね」 口調は相変わらずだったが、その表情はほんの少しだけ眉が下がったように見えた。 ふっと息をついて葉山が答える。 「いや、たぶん君の印象は正しいんだと思うよ。 俺が変わったんだ…………ほんの少しだけだけど」 「……なるほど」 そう言ってこちらの方を見やる葉山。 その動きで言葉の意味を理解したのか雪ノ下も顎に手をやりこちらに顔を向ける。 「い、いや……俺は何も……」 何故かこちらを見られたので、なんだかよくわからない言い訳めいた言葉をつい口走ってしまう。 俺のその反応を見て 由比ヶ浜までやれやれといった顔をする。 何でだよ……。 28 ID:fbYqBXpR0 「そう。 じゃあ、さようなら」 雪ノ下は髪をかきあげて後ろに振り返り、自分のクラスのロッカーに向かって歩き出す。 「さようなら…………雪ノ下さん」 名残惜しそうに彼女の名前を呼んだ葉山のその後姿は、この俺ですら何か励ましたくなるような気がした。 実際には そんなことしてやらないが。 下に置いていた鞄を重そうに持ち直すと、由比ヶ浜と俺に向かって挨拶する。 「じゃあ君たちも。 さようなら……由比ヶ浜さんに比企谷くん」 「さ、さようなら」 「……さようなら」 背筋が伸びきらないまま、葉山も自分のクラスのロッカーに向かう。 俺と由比ヶ浜だけがその場に残された。 周囲の喧騒 は元に戻ったが、その話題はどう聞いてもさっきの告白話だ。 由比ヶ浜は片手を胸の前で握りながら心配そうに言う。 11 ID:fbYqBXpR0 俺の言葉が予想外だったのか彼女は驚きの声を上げて少し頬を紅潮させた。 そうか……まだ由比ヶ浜は葉山の本当の意図 に気づいていない。 雪ノ下への告白はそれが本心だったとしてもそれ自体が主たる目的ではない。 そういえば、修学旅行 の時も戸部の告白に一番乗り気だったのは彼女だったな。 クラスの人間関係に気を遣えるとはいっても、由比ヶ浜はあま り恋愛がらみでそういうトラブルには遭ったことがないのだろう。 だから俺や葉山、三浦が心配していたことに関しては 疎かったのだ。 しかし、結局こうなるのかよ。 これじゃああの時俺のやったことって………… 「い、今のはどういう……?」 俺がそんなことに考えを巡らせていると由比ヶ浜はこちらをちらっと見ながら訊いてきた。 「いや、なんでもない……」 ここで俺が葉山の意図について話すと結局は俺の考えている問題に行き着いてしまう。 だからこうやって誤魔化すしか なかった。 それに、どうせ明日になればわかることだ。 今あえて言う必要もない。 ただ、由比ヶ浜が葉山のことを心配 することに関して一言だけ言うとしたらこんなことだろう。 「葉山は……たぶんこうなると全部わかっていて……それでも自分の意思でこうしたんだ。 63 ID:fbYqBXpR0 それは、遠まわしに自分の意思以外で結果が左右されることの方が心配であるということが言いたかったが、今の彼女に はそこまで伝わってないだろうし、また自分としても伝える気はなかった。 「それならいいけど…………ところで……明日はちゃんと来てよ」 「それは無理だ」 即答した俺に、由比ヶ浜は両手を胸の下でいじりながら目をそらし気味にぽそっとつぶやく。 「き、昨日のことならさ……あ、あたしもゆきのんも……もう気にしてないし……だから」 「いや、そういう問題じゃないんだ」 「ね、ねぇ……もしかして昨日のアレって本当は……本気で……」 「いや、それはないな。 68 ID:fbYqBXpR0 お互いが言っても大丈夫だと確信できる内容を探っているうちに沈黙が生まれてしまう。 こういう種類の沈黙はあまり 好きにはなれないな。 だから、もう話を切ってしまう。 「じゃあ、そういうことで。 またな」 俺は由比ヶ浜の顔もよく見ずに先にロッカーに向けて歩き出してしまう。 彼女も諦めたのかそれ以上話しかけたり追って きたりすることはなかった。 それならば、その覚悟に俺も応えなくてはいけない。 由比ヶ浜の言ったように、今の状態の俺でも彼女たちは受け入れてくれるのかもしれない。 しかし、結局はその 行為がすべてを失わせることにつながってしまうのだろう。 それこそ、葉山のように。 もう戻ることができない以上、留まるか進むかの二つの選択しかない。 しかし、今の俺が留まっている場所は薄氷の上で、 じきにその氷も融けてしまうのだろう。 それに、進んだところでどうなるのかもわかるものではない。 何より、進んだ ところで上手くやれる自信がとてもじゃないが今の俺にはない。 そもそも、どの方向に進むのかもまだ決めきれていない。 戻っても、留まっても、進んでも、いずれは失ってしまう…………それならどうするべきなのか。 まだ、俺はその答え を見つけることができずにいた。 噂というものは、何を原動力にして伝播するものなのだろうか。 まずは好奇心とか野次馬根性とかが考えられる。 ただ 単純に何かを知りたい、どうなっているか気になる、という気持ちが人に噂の内容を尋ねる動機になる。 わたし、気にな ります!というやつだ。 もうひとつは、他人と情報を共有したいという気持ちが人をそうさせるのだろう。 同じ情報を 共有することは連帯感なんぞを高めるのに有効な手段だ。 葉山も夏休みの合宿で小学生相手にやっていたしな。 まぁ、 キャンプのオリエンテーリングや恋愛談義なら情報を共有しないことによる実害などそうそうはないだろうが、これが 業務となると非常に面倒なことになるので注意が必要だ。 会社の上司とかが言う「俺はそんなこと聞いてないぞ!」と いうやつだ。 ただ、いずれにせよぼっちの人間の場合には集団内の人間のことなんて関心が薄いし、他人と情報を共有することも ないので基本的に噂とは無縁の存在である。 自分がその噂の内容に関わらない限りは。 その点、最近の俺の行動はいささかぼっちにあるまじき様相を呈していたわけで、色々事情があるにせよ噂話の台風の目 になってしまっていた。 しかし、台風の目というのも少し辛くなってきたかな。 自らが無風状態であると自信を持って 言えなくなってしまっている気がする。 そんな中、本日新たな台風がこの2年F組にも上陸した模様だ。 そして容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、冷酷無比な校内一との呼び声も高い美少女、雪ノ下雪乃。 この二人が関わる 噂話があったらどうなるのか。 しかも、内容はみんな大好きな恋バナときたもんだ。 瞬く間に広まるのは自明の理だった。 おとといの出来事は皆の記憶から見事に雲散霧消した。 なにせ話題性が段違いだ。 芸能記事でも熱愛している相手が一般 人と芸能人ではだいぶ関心のレベルには差が出る。 そこからいけば俺など人間扱いされているかも怪しい存在なので、皆 興味のある情報の方に飛びつくというわけだ。 それどころかおとといの話まで葉山が雪ノ下に告ったなどと混同されて いるレベル。 まぁ、その方が俺としてはありがたいことなのかもしれないが。 そんなわけで、今日俺が教室に入った時にはもうその話題で持ち切りになっていて自分の存在などあってなかったような 扱いを、要は無視されていた。 「葉山くん雪ノ下さんに告ったんだって!」「葉山くん雪ノ下さんのことが好きだったんだ、なんかショックかも」「でも 雪ノ下さん断ったみたいだよ」「え~!?でもあの二人ならお似合いだと思うけどなぁ~」「あたしだったら即OKしちゃ うのになぁ」「そもそもあんたじゃ相手にされないよ」「アハハハハ」 なんかずいぶんと和やかじゃありませんか?他にも「葉山くん男らしい」だの「葉山くんカッコイイ」だの「雪ノ下さん が羨ましい」だの…………俺の時はまるで犯罪の加害者と被害者みたいな扱いだったのに。 まぁ、わかってはいたけど。 愛国無罪ならぬイケメン無罪か。 かわいいは正義ならかっこいいもまた正義なのである。 その理屈からいくと俺は悪と いうことになるのか?いやいや、現実の世界は異なる正義と正義のぶつかり合いだ…………俺には俺なりの正義があると 声を大にして…………言いたいなんて思ったことなかったはずなのに。 自分の正義など自分の中だけで納得できていれば それでよかったはずなのに。 他人から理解してもらおうなんてこれっぽっちも思ってなかったはずなのに。 よりによって あの葉山隼人が。 俺とは絶対に相容れることのない存在であるはずの人間が。 俺を…………俺だけを助けようとした。 それは、俺を女子両名への告白の噂から解放するのが目的に他なら ない。 ほとんどの人間はその真意についてもその行為の副作用についても気づいていない。 みんな噂の内容に夢中に なっていて、当の本人の様子にはあまり関心がないようだ。 しかし、葉山に近しい人間ならその変化に向き合わざるを 得ないだろう。 表面上、彼のいる位置は昨日とまったく変わっていない。 だが、よく見ると彼は誰とも会話をしていない。 話を聞いて反応はしているが、自分から話すことはない。 ちなみに葉山のガチっぽい雰囲気を察したのかグループ内では ひとまず昨日の告白話は控えるようにしたみたいだ。 ただ、そんな気遣いには関係なく葉山グループの時計の針はもう その動きを止められない。 特に葉山と三浦の間なんかは時間が倍速で進んでそうだ。 結局のところ、葉山グループが葉山のためのグループであったのと同じように三浦グループもまた三浦のためのグループ に他ならなかった。 だから、葉山と三浦の関係が壊れればおのずと他のメンバー同士の関わりにも影響する。 こうなる ことは戸部も海老名さんも望んでいなかったはずだ。 そんなことは重々理解していたはずで、また自分もそれを望んで いたはずなのに葉山は自分の手で壊すことにしたようだ。 しかも理由が俺のためらしい…………意味がわからない。 心情的に。 それが何故……やはり結局のところ葉山に関することであっても他人については理解したつもりに なっていただけに過ぎないのかもしれない。 そんなことを考えつつ、お昼休みに俺はまた例の場所でパンをかじっていると後ろから聞き覚えのある声がかかる。 「……やっぱりここにいたんだね、比企谷くん」 振り返ると、そこには本日上陸した台風の目があった。 その目は少し寂しげに笑っていた。 「葉山…………むしろ何でお前がこんなところに」 「俺だってたまには一人になりたい時もあるさ」 そう言いながら階段に近づき、俺の横に腰かけた。 戸塚ほどじゃないが距離が近い。 思わず、体を少し横にずらす。 「俺の存在は勘定に入ってないんですね……」 「ああ、そうか……でも、君の場合は二人でいてもたいていは一人と一人って感じじゃないか?」 何気に酷いことを言われている気がするが、実際そうなので言い返すこともできない。 俺は話題を変えることにした。 「それより…………どうしてここがわかった」 「結衣に訊いた」 「そうですか……」 なんかまた聞きたくもないことを訊いてしまった。 別に葉山が由比ヶ浜と何を話そうが俺には関係のないことなのに。 あと、これあげるよ」 そう言いながら爽やかな笑顔で俺にMAXコーヒーを手渡す。 俺の好みがわかっているとはこいつもなかなかやる じゃないか。 一体どこから情報を…………いや、それ以上考えるのはやめておこう。 「どうも……」 もう一本持っていた自分の分を葉山が手に取ったところで、二人同時にプルタブを開けて飲み始める。 温かい甘さが 体中に沁みわたっていく気がした。 一息ついたところでまた葉山が話し始める。 「……何か君の方から訊きたいこととかもあるんじゃない?」 「いや…………別に俺はお前のことそんなに興味あるわけでも知りたいと思っているわけでもないし」 そりゃないとは言わないが、わざわざそれを聞いてどうなんだという感じだし、たぶん俺にとっても不利な結果になる ことはわかりきっている。 おとといの屋上での会話を思い返す限りでは。 「そうか……俺は興味あるんだけどな、君のこと」 「……」 いや、そんなことこっち向いて真顔で言わないで下さいよ葉山サン。 なんか色々な意味で怖いんですが。 海老名サン的な 意味でも。 …………はやはちとかあり得ない、よね?ダメ、絶対。 今のこいつと話したくねぇ。 もう絶対避けられないもんね、話題的に。 頼むから黙ってて くれよ、マジで。 俺の無言の拒否は無視して葉山は話を続ける。 「まぁ、こんなことをしたところで君の気持ちがわかるとも思えないけど…………ただ、そんなに悪い気分じゃない」 「そりゃお前のような人間の場合、自分の意思だけで決められることなんて少ないからな。 自分の勝手だけで色々と 決められるっていうのもそんなに悪いもんじゃないだろ?」 「はは、まったくその通りだ」 以前にも考えたことだが、ここでさりげなく葉山にぼっちの道へと引きずりおろそうとする自分。 このなかなかの策士 っぷりにはもう少し賞賛の声があってもよいのではいだろうか。 いや、陰謀というのは明るみになったらダメなものだ った。 やはり日陰者の俺最強。 …………最近は少し日向に出過ぎたか。 「俺は周りの人間のことなどどうでもいいから今まで好き勝手にやってきたが…………いいのか?お前がこんなことを してしまっても。 お前は自分の周りの人間の環境をどうしても維持したいものだと思っていたんだが」 それこそ、俺を犠牲にしてでも。 そして、それは葉山だけでなく海老名さんや三浦の願いでもあったはずだ。 「確かにね。 それで、あんな噂が広がるということは 流したのは俺の友達以外ではありえない」 「……状況証拠的にはそうかもな。 でも……それが何でお前の心境の変化につながるのかが俺にはわからん」 「あの出来事はきっかけに過ぎなかったのかもしれない。 ただ、俺の中での君への期待はますます天井知らずになって しまった。 このままだと、たぶんまた君を犠牲にするであろうことは容易に想像できた」 「それならどんどん犠牲にすりゃいいじゃねぇか。 俺はどうせ他の方法を知らんのだし」 「もう…………それは自分が許さなかったんだよ」 「なんだそりゃ……それじゃあお前、まるでいい奴みたいじゃないか」 俺の言葉が何か癇に障ったのか、葉山がこちらに振り向く。 その表情は普段のクールな爽やかイケメンとは程遠かった。 「そんなんじゃない…………俺は、君に嫉妬していた」 「……」 どこから見てもいい奴と思われている人間に、こんな負の感情を真っ直ぐぶつけられるとは思わなかった。 伏線らしき ものがなかったわけじゃないけどね。 夏休みの合宿の時に君とは仲良くできなかっただろう、と言われたのを思い出す。 自分でそのことを認めるのと他人から言われるのはまた違うものだ。 俺は、葉山にそれ を言われることがまだ納得できていなかったのかもしれない。 だから、こんな言葉を返す。 「お前に雪ノ下の…………何がわかるんだよ」 「わかるよ。 ずっと彼女のことを見てきたんだ。 小さい時から好きだった女の子 は自分には全くなびくことはなくて、ぽっと出の捻くれたぼっちに好意を寄せている。 そもそも、そんな状況すら認めた くもないはずだ。 でも、目の前にいるこの男はその現実から目を背けず、認めたうえで彼女に想いを告げて敗れ去った。 そういう人間の発した言葉を無碍になどできるものだろうか。 ……葉山は俺の言葉を待たずに話を続ける。 「俺は、ずっと彼女のことを見てきてどうにかしてあげたいと思っていた。

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陽乃「お姉さんが慰めてあげよっか?」【俺ガイルss/アニメss】

俺ガイル ss 八幡 イケメン 隠す

コメント一覧 19• 名無し• 2017年03月05日 21:39• とくめい• 2017年06月19日 23:49• 途中までは面白かった… 入れ替えがなければ… 乙です• 名無し• 2017年06月30日 23:17• 時間の無駄だった• 2017年09月25日 22:34• 入れ替えで糞になった• ガイジかな• 2017年10月28日 10:02• 書いたやつマジで知的障害持ちだろ• 2018年04月23日 17:39• 2018年05月20日 03:36• 入れ替え無し版はよ• 2018年06月05日 13:38• 入れ替え後何かあるのかと思って読んだけど何もなかった 途中で話作れなくなったから投げたパターンね• おいうえおい• 2018年06月07日 12:53• しょーもない• さっぱん• 2018年07月03日 22:01• なぜ、入れ換えた? そこですべてが糞になった。 途中まで面白かったのにな、ここまで落ちた作品は初めて読んだわ。 入れ替わらないやつも書いてください何でも ry• 2019年07月11日 23:28• 入れ換え後のキャラ立てがバラバラで残念• 名無し• 2019年07月15日 00:58• 名無し• 2019年07月21日 06:51• 途中まではよかった• 名無し• 2019年07月22日 00:05• ぶっちゃけ男も気持ち悪い• 2019年07月23日 14:25• 締めがクソ• なにこれ• 2020年01月29日 01:20• は???????• 名無し• 2020年03月04日 03:19• は? おいおい…こんなの酷いよ… 出来れば最後まで頑張って書いて欲しかった。 名無し• 2020年06月13日 14:05• は?落ちゴミだろww• 名無し• 2020年06月24日 06:06• ゴミ コメントする.

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感想

俺ガイル ss 八幡 イケメン 隠す

2ch. 名無し• 2013年12月08日 11:58• 名無し• 2013年12月08日 12:17• 名無し• 2013年12月08日 16:49• おもしろかた!• 名無し• 2013年12月08日 17:21• 葉山www• 名無し• 2013年12月08日 18:55• なかなか、面白い。 名無し• 2013年12月08日 18:57• まーたホモか・・・• 名無し• 2013年12月08日 19:35• 眼鏡とか俺得 最近にわか眼鏡厨が増えて困るけどな• 名無し• 2013年12月08日 20:20• ヒッキーにグラサンかけさして(目を隠すと)雪晴由がほれるってssあったな• 名無し• 2013年12月08日 21:27• 葉山はホモ はっきりわかんだね• 名無し• 2013年12月09日 00:48• ゆきのん安定の横暴っぷり どのSSでもこんなキャラって事はゆきのん=横暴ってイメージが定着してんだな• 名無し• 2013年12月09日 16:53• 面白いけど、平塚先生がヒッキーのことを『お前』って呼ぶのはキレた時だけだからたいして原作読み込んでないのが露呈してる。 名無し• 2014年04月27日 12:41• ゆきのんは黙秘はするけど嘘は本当につかないだろうから、 一応ウソじゃないぎりぎりのところを狙うだろうなーと思う。 いや、面白かったけど。 ただなんかズレてるなーと。 名無し• 2014年05月26日 00:27• 名無し• 2014年08月20日 01:58• コンタクトの方が腐った目が隠せるから結果的に八幡はイケメンになっただけだろ。 cheap barbour jackets• 2014年08月28日 11:13• php.

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